学会の活動

広報概念の定義

背景と目的

1923年にエドワード・L・バーネイズが広報を解説した最初の本『世論の結晶化』を出版してから100年が経過した。この間、広報を取り巻く社会的・経済的環境は変化を続け、企業等の組織におけるコミュニケーションを担う業務や機能としての広報業務の重要性は増している。しかしながら、広報の定義については、世界中で多くの実務家や研究者によって議論が行われてきたにもかかわらず、結論が出ていない。むしろ広報業務が拡充していく過程で、研究者や実務者の間で、広報概念をめぐる混乱が生じやすくなっている。

こうした状況を踏まえ、日本広報学会は2021年に「新たな広報概念の定義」プロジェクトを立ち上げ、約2年間かけて本学会の立場を反映した広報の定義を作成した。その目的は、①広報に対する共通認識の形成、②隣接領域との関係の明確化、③広報領域の地位向上である。

なお今回、日本広報学会としての公式な定義を示すことは、他の組織や団体、個人がこれまで発表してきた定義を否定したり、今後の広報の実務や研究の範囲を制限したりすることを意図しない。広報は重層的で拡張性のある概念であり、立場や文脈に応じて定義したり、異なる視点や考え方から定義することも可能だからである。

定義文は以下のとおりである。

組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。

対象

広報の概念

本定義では、「広報」「パブリック・リレーションズ」「コーポレート・コミュニケーション」は同じ意味を持つ概念として捉え、便宜上、日本語表現としての「広報」を用いる。これら三つの概念は細かいニュアンスの違いがあり、どちらかがより包括的な上位概念として捉える考え方もある。しかし、過去の文献や議論をたどると、これらの概念の本来の意味として示されてきた内容は、基本的に同じである。

主体

組織や個人が

本定義では、広報の主体にあらゆる組織や個人を含む。つまり主体には、営利企業だけでなく、行政機関、学校法人、医療機関、非営利組織はもちろん、個人も含むと考える。従来、広報は、組織が主な担い手だったが、メディア環境が激変し、オウンドメディアやSNSを活用して、アスリートや芸術家など、個人が自らをセルフプロモーションするなど、事業目的で広報することが可能になった。

目的

目的達成や課題解決のために

本定義では、広報の目的は、組織や個人の「目的達成や課題解決に貢献すること」と捉える。広報の目的は幅広く、認知の獲得や売り上げの向上、採用計画の実現、失われた信頼の回復など多岐にわたる。広報は中長期的なものも含め、目的を明確にして展開されることが、望ましいと考える。

客体

多様なステークホルダーとの

本定義では、広報の客体にも、個人から組織、社会まで、多種多様なステークホルダーを含む。ステークホルダーとは、主体に直接・間接的に影響を与え、かつ与えられる可能性のある組織・集団・個人である。「パブリック・リレーションズ」の表現に用いられる「パブリック」は抽象的な概念であるのに対し、「ステークホルダー」は、主体との関係を具体的に意識する上で効果的な表現だと考える。

手段

双方向コミュニケーションによって

広報に用いられるメディア技法は多岐にわたるが、本定義では、効果的かつ倫理的で、ステークホルダーに対する理解を伴う「双方向コミュニケーション」を挙げた。双方向コミュニケーションとはコミュニケーションのループであり、ステークホルダーに対して情報を伝達するだけでなく、ステークホルダーの意見などのフィードバックを得ることを繰り返すことを指す。双方向コミュニケーションの過程では、広報の主体による「自己修正」も求められる。

目標

社会的に望ましい関係を構築・維持する

本定義では、目的に至る目標として「社会的に望ましい関係」を挙げる。これは、ステークホルダーとの信頼関係を前提に、持続可能な社会や多様性の尊重される社会にふさわしい関係である。広報において、信頼関係の構築は最重要視されている。「社会的に望ましい関係」を形成するには、当事者間のみの信頼関係だけではなく、多様なステークホルダーとの双方向的で倫理的なコミュニケーションが不可欠であり、変化する時代の価値観に対応することが求められる。

分類

経営機能である

本定義では、広報を経営機能の一つとして位置づける。経営機能とは、継続的・計画的に事業を遂行するために必要な役割であり、企業経営においては、人事機能、マーケティング機能、販売機能、財務機能などと並ぶのが広報機能である。広報機能を果たすための業務としては、記者会見の実施、取材対応、社内報の発行、SNSの運用など、具体的な活動や、それに関わる調査・計画・実施・評価などのプロセス管理が含まれる。また、他の経営機能とも有機的に関わり、意思決定に貢献すると考える。

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