学会の活動
日本広報学会賞
概要Outline
2013年度(第8回)日本広報学会賞決定
2013年度(第8回)日本広報学会賞は、9月5日に審査委員会(委員長 宮部 潤一郎)を開催し、学会賞授与に関する審査を行い、以下の通り受賞作を選出した。
同学会賞は、第19回研究発表大会(10月5日、6日 於東洋大学)の第1日目冒頭に宮部同賞審査委員長から発表され、表彰が行われました。
審査対象
本学会会員が、2012年4月1日から2013年3月31日までに公刊した図書・論文で自薦、他薦によるもの、および『広報研究』第17号収録の論文を対象とした結果、図書1点、論文7点、計8点の応募がありました。部門別の応募は以下の通りです。
- 学術貢献賞への応募 1点
- 優秀研究奨励賞への応募 1点
- 研究奨励賞への応募 7点
- 教育・実践貢献賞への応募 1点
(複数の部門に応募した作品があるため、応募作品数と部門別応募作品数は一致しない。)
審査結果
学術貢献賞 | 該当作なし |
---|---|
優秀研究奨励賞 | 該当作なし |
研究奨励賞 | 次の2作品とする
|
受賞作品の講評
今回の応募作の中には高い独自性のあるアイデアに基づく研究や目配りの行き届いた論考など力作が多く、審査委員会では受賞作の絞込みにあたってこれまで以上の時間を要した。対象となった作品の執筆者各位の広報研究に向ける努力に敬意を表するとともに、更なる研鑽を積まれ高い水準の研究成果を目指されることを期待したい。
「研究奨励賞」の授賞理由
国枝智樹著「東京の広報前史−戦前、戦中における自治体広報の変遷−」、広報研究第17号2012年3月
国枝氏の論文は、戦前・戦中の東京市における広報・広聴的な活動を、米国のPR発展史研究を念頭に置きつつ、我が国独自の展開を丹念な資料収集と検討から明らかにしたものである。学術性、実証性、独自性といった点から高く評価され、また将来性についての意見の一致もあり、審査委員会委員全員一致で研究奨励賞に値する論文であるとの評価を下した。
わが国の広報が戦後GHQによってもたらされたとの通念に対する異議申し立ては一昨年の教育・実践貢献賞受賞作の「日本の広報・PR100年」等により既に提起されてきてはいるが、本論文は自治体広報について、東京市を対象として綿密な論考を重ねて概ね80年におよぶ行政広報の展開を跡付けている。ここでとくに重要な指摘は、限定的ではあったとしても、江戸期ないしは明治初期から蓄積されてきた広報・広聴の実践の歴史の上に戦前期の活動があり、そこから戦中の厳しい条件下での活動につながったことを示していることである。つまり、戦前からの継続性の上に戦中の活動があり、さらに国枝氏は直接に言及していないが、戦後の、そして現在に至る活動に連なる下地、基盤が長い時間の経過の中で形成されてきたということであろう。この継続性という点に光を当てたところに本論文の意義がある。このような長い時間視野を持つことが、いま大変重要になっているのではないだろうか。
審議の過程では、国枝氏自身が認識している通り東京市の事例研究であり、これをもって日本の自治体広報一般の歴史とすることはできない、また、文章表現にもう一段の工夫が欲しい、といった意見が出された。ただ、これらの点を考慮してもなお本論文は十分に研究奨励賞に値すると判断された。
いずれにしても、広報史研究に新たなページを開くものであり、地道に歴史研究に取り組む若い研究者の出現を喜びたい。国枝氏には今後、さらなる研究の展開を期待したい。
「研究奨励賞」の授賞理由
櫻井光行著「パブリック・リレーションズ再考のための試論−ハーバーマス等の公共哲学の議論を参考に−」、広報研究第17号2012年3月
櫻井氏の論文は、パブリック・リレーションズの本源的な目的・意味を問い直すもので、ハーバーマスの公共性、公共圏の議論やコミュニケーション的合意性の議論に依拠しつつ、パブリックとリレーションに分解したうえでそれぞれの意味を考察している。このような考察から広報の目的や価値を問い直し、論考の結論として「広報は公共領域における相互理解を目標とするコミュニケーションと位置づけることができる」との結論を導いている。櫻井氏の文献読み込みや理論構築に向ける真摯な研究態度は評価に値するものであり、理論研究として学会賞にふさわしい水準にあるとして、審査委員会委員全員一致で、研究奨励賞に該当する論文であるとの評価を下した。
いま広報の目的や価値を問い直す必要があるとの問題意識は、櫻井氏の実務家としての業務の中で醸成されたのであろうと思われる。東日本大震災後の広報活動の現状や広報と広告のボーダーレス化といった問題意識の背景にある現状認識は、真摯な実務家の声として傾聴に値すると思われる。
審議の過程で、櫻井氏の理論研究に対する姿勢を評価しつつもなお論理性や独自性を研鑽することで学術性を高めていかれることを期待するとの意見があった。
ここでは実務家がこのような理論研究に果敢に挑戦したことを評価し、アカデミックな研究者に奮起を促しておきたい。